こんにちはMHG-NMR Centerの真壁です。
友達の奥さんからの相談です。私はMDですが専門は脳神経外科ですので宜しくお願いします。どなたかご意見を下さい。
その奥さんが料理学校(調理師かもしれません)に通っているのですが、修了証書をもらうのに結核に感染していないことを示す診断書の提出を求められたそうです。彼女はMGHの外来でツベルクリン反応を受け陽性を指摘されました。BCG を12歳時に受けていますので、私は特に問題ないと思います。しかし、MGH のDoctorは胸部X線写真等、ひととおりの検査を行い、異常が発見されなかったにもかかわらず、写真に写っていないから体のどこかに結核病巣があるかもしれないと主張して服薬を求めるそうです。もちろん結核に感染していない証明はもらえません。どなたか、この状態から抜け出せる良い方法は無いでしょうか。
以下の二つが彼女の取りうる選択だと思います。
その医者は12年でBCGの効果は無くなると主張しているようです。彼女は現在27才ですのでBCG から15年経っていることになります。私自身(BCGから15年以上経っています)アメリカに来たときに、MGHでツベルクリンを受け、反応が偽陽性ー陽性だと思われました。しかし、そこは担当の看護婦さんが良く心得ていてnegativeならもう来なくて良いと言ったのでそのままにしておきました。
(1)BCG接種後の経時的な偽陽性率の変化についての論文を、その医師に提出して彼の主張は(少なくとも日本のBCGを接種された人には)正しくないことを示す。
;残念ながら私はそのような論文は知りませし、見当もつきません。Medline でツベルクリンで検索しても、おそらくその医師以上の情報はアメリカでは手に入らないでしょう。まさか、MGHの医師が理論的な裏付けなしに具体的な数字を出して主張するとは思えませんから。どなたか、日本のデーターが手にはいる方はいませんか。
(2)彼女が欲しいのは単に証明書ですから、セカンドオピニオンと称して、どこかの医者にお願いして証明書を交付してもらう。どなたかそんな適当な医者を知りませんか。
以上2点について、どなたかご意見を下さい。
野村です.
これはまさにひと事ではありませんよね.私も初めの検診でツ反陽性のため,日本で2カ月前に胸部レ線をとったにも関わらず,また撮られました.もちろん異常はありませんでしたが,やはり6カ月間のINH服用を勧められました(もちろん断りましたが).日本では例え安いINHでも結核予防法による届け出などの制約が(本来)ありますが,こちらではそのような制約が少ないのでしょう.他の日本人研究者も,ツ反陽性の人が多いようで,同様の話はあちこちで聞かれるようです.
さて,私も専門外なのでお答えできませんが,確かに他の医師を当たる方が近道なような気がします.と思いつつも,後学のためMEDLINE searchをしたところ,次のような2つのpaperを見つけました.既にご存じかも知れませんが,一応abstructを転載します.なお,HMJメンバーの方の中には,医療関係外の方もおられますので,一応少しだけ私なりの説明を加えておきます.間違っていたらご指摘下さい.
Ballew KA; Becker DM. Tuberculosis screening in adults who have received bacille Calmette-Gueerin vaccine. South Med J 88: 1025-30, 95
Abstract: The incidence of tuberculosis among immigrants to the United States is 12 times that in the native-born population. Screening immigrants for tuberculosis is complicated by the widespread use of bacille Calmette-Gueerin (BCG) vaccination. To determine the utility of tuberculin testing in adults who have been vaccinated with BCG vaccine, we studied the tuberculin reactions of 80 adults who came to us for naturalization physical examinations. No adverse effects were reported from tuberculin testing. Subjects from regions with a low prevalence of tuberculosis who had received BCG vaccine were significantly more likely to have a positive reaction than subjects who had not received BCG vaccine. However, among subjects from regions with a high prevalence of tuberculosis, there was no difference in the prevalence of positive reactions between those who reported having BCG vaccinations and those who said they had not. Interpretation of tuberculin reactions in immigrants who receive BCG vaccinations depends on the prevalence of tuberculosis in the country of origin. Adults receiving BCG vaccination who have a positive reaction and no evidence of active tuberculosis should receive prophylactic therapy or be observed carefully.
この論文の場合,結核の多い国から来た移民では,ツ反はBCG経験者と非経験者の間で差がないが,結核の少ない国から来た移民では,BCG経験者の方が反応が強く出るということがわかります.日本がどちらに当たるのかが問題になりそうです.また,対象の年齢分布など,実際に論文に当たってみないとわかりませんね.ただ,いずれにしてもツ反が陽性の人を黒とも言えないかわり,白とも結論づけることはできないようです.
Horowitz HW; Luciano BB; Kadel JR; Wormser GP. Tuberculin skin test conversion in hospital employees vaccinated with bacille Calmette-Gueerin: recent Mycobacterium tuberculosis infection or booster effect? Am J Infect 23: 181-7, 95
Abstract: OBJECTIVE: A rise in the incidence of purified protein derivative (PPD) skin test conversions among employees at our medical center between 1991 and 1993 prompted an examination of factors associated with PPD skin test conversion. We focused on the effect of bacille Calmette-Gueerin (BCG) vaccination on PPD skin test conversion because of changes in employee health service policies in 1990 regarding testing of persons who had received BCG vaccination. METHODS: The study took place in a university teaching hospital employee health service. Charts of employees who had PPD skin test conversion (> 10 mm increase in induration of the PPD response within 2 years if younger than 35 years of age or > 15 mm if older than 35 years of age) between 1988 and 1993 were reviewed for factors that could have influenced PPD skin test conversion and compared with data from 271 randomly selected charts of employees who underwent annual employee assessments in 1993 but did not have PPD skin test conversion. RESULTS: PPD skin test conversions rose from 0.06% (1/1604) to1.3% (22/1760; p = 0.000001) in employees tested between 1988 and 1993. Of 41 persons with PPD skin test conversion between 1991 and 1993, 29 (71%) had received BCG vaccination. Only 21% of control subjects (56/271) had received BCG vaccination (p < 0.000001 for comparison of BCG vaccination among those with PPD skin test conversion with that among control subjects). When BCG recipients were not included as having PPD skin test conversion, there was no significant increase in PPD skin test conversions. Twenty-three BCG recipients had PPD skin test conversion on their second PPD skin tests. CONCLUSION: A large proportion of PPD skin test conversions at hospitals that employ large numbers of health care workers who have received BCG vaccination may not represent recently acquired tuberculosis. Rather, these conversions may be effects of previous BCG vaccination. Two-step initial PPD skin testing may help to eliminate nearly 80% of such false-positive conversions.
これを見ると,特に病院関係者などで結核の患者に接する機会の多い人は,新たな感染には至らない結核菌への暴露により,ツ反が強く出ることがあるようですね(ブースター効果).この論文の結果からは,BCG免疫12年説は否定的と考えて良いかも知れません.ただし,1番目の論文同様,白黒はっきりつけると言うことは不可能です.
ということで,あまりお役に立てませんでしたが,結核は否定はできないものの,肯定することも到底できないということだと思います.
なお,蛇足ですがツ反が強陽性のケースは,INHの服用をお勧めしたいと思います.本当に結核菌に感染している可能性が高くなりますし,前述のように日本では法律の上ではINHの服用も簡単にできませんし(実際はそうでもありませんが),人にあまり知られたくないことですからアメリカで服用を済ましてしまうと良いのではないかと思うからです.
26 Nov 1996 DFCI の立花です。日本ではもっぱら肺癌と間質性肺炎の治療をしていました。
私もこちらで 1 歳半の息子が検診時にツ反を受けた際、たとえ BCG を受けていても陽性にでれば INH の内服を求められることがあると聞き、当惑したことがあります。この時は結局病院で判定してもらわず、自分で判定し ++ と母子手帳に記録しました。もちろん INH の内服はさせていません。
同じ研究室の MD に尋ねてみたところ、彼は"Infectious Diseases"という textbook を持ってきて丁寧に説明してくれました。彼によると、USA の MD は原則として (無症状の) ツ反陽性者を見た場合、BCG 接種の有無を問わずに感染の既往ありとして発病予防のため INH の内服を薦める。例外は次の 3 つの場合である。
(1) 35 歳以上の者 (INH による肝障害が現れやすいのと、感染が最近成立した可能性が低いため)
(2) 肝障害のある者
(3) 結核病巣のある者 (この場合は INH に RFP などの他剤を併用した治療となる)
おそらくすべての (ちゃんとした?) 医者は INH の処方をすることなしに診断書は書かないだろうとのことでした。BCG 接種の有無を問わないことの根拠として、この textbook はカナダで行われたスタディをあげています。それによると、1 歳までに BCG 接種を受けた子供のうち、10-25 年後になおツ反が陽性である者はわずか 7.9 % で、BCG 接種を受けていない群と比較して有為差がなかったようです。したがって彼によると、その奥さんが修了証書を手に入れるためには 35 歳になるまで待つか、やけ酒を飲むしかないとのことです。
問題は本当に感染によって陽転したのか、それとも BCG の効果が残っているのかという事につきますが、日本の場合カナダや USA に比べ結核の数も多いし、われわれのまわりに多くのツ反陽性者がいることを考えるとやはり野村先生が出された文献のように BCG (+ ブースター効果) で陽性を示す者が大部分ではないかと考えます。
しかし、残念ながら日本でのそのようなスタディを私は知りません。いずれにしても、その奥さんは最近結核患者との接触があったわけでもなく、また最近の 2 年間に陽転したわけでもないでしょうから INH の内服の必要はないと思います。
それではどうやって修了証書を手に入れるかということですが、やはり子供の頃にBCG を受けたイタリア人の同僚は、ツ反陽性でしたが胸部 X 線検査で異常所見がないと分かるとあえて薬の内服は求められなかったそうです。真壁先生ご自身も経験されたように、融通のきく医療機関もあるでしょうからやはり他の (例えば日本人の) 医者をまず当たってみてはどうでしょうか。料理学校に、こちらで仕事はしないからとかけ合うのもひとつの手だと思います。最後の手段としては、INH の処方はしてもらうが実際には内服しないというのはどうでしょうか。
breakthrough となる提案はできませんでしたが、ご参考までに。
Other Links
PUBLIC HEALTH FACT SHEET --- Tuberculosis The Massachusetts Department of Public Health によるFACT SHEET