税金

  1. 序文

    アメリカの税法は非常に複雑で、個々人の国籍やビザの種類、収入源によっても著
    しく異なってきます。その上、毎年少しずつ税法が改正になっていくので、アメリカ
    人といえども正確に把握している人はほとんどいないと思った方が間違いないでしょう。
     ここでは、HMJの会員の中でも主流を占める「マサチューセッツ州に在住しているJ
    ビザ保持の日本人研究者とその同居家族」に限って申告方法を解説していきます。以
    下に述べることは必ずしも日本人全員に当てはまるものではないことをご承知おき下
    さい。詳しくはPublication 519, U.S. Tax Guide for Aliensをご覧下さい。 http:
    //www.thetaxguy.com/Default.htm
    にも簡潔に情報がまとまっていますので参考にし
    て下さい。

  2. 税金の種類

     所得税には連邦税 (Federal Income Tax) と州税 (State Income Tax) の2種類が
    あり、基本的にはこの両方を申告することになります。必要なFormとInstructionsは
    HarvardのInternational OfficeやPartners Officeの他、図書館、郵便局、銀行など
    で手に入ります。締め切り近くなると手に入りにくくなりますので、早めに入手する
    ようにして下さい。
     また、IRSのホームページ (http://www.%20irs.ustreas.gov/)、DORのホームページ (
    http://www.state.ma.us/dor) からは必要な書類をダウンロードすることができます。
     所得税以外には、FICA (Social Security Tax)として、OASDI (old-age, survivor
    s, and disability insurance; 年金のようなもの) 6.2%と、Medicare HI (Medicare
    Hospital Insurance;老人医療保険のようなもの) 1.45%の2種類があります。US Non
    -residentの間すなわち2年 (Calender Year) 目までは免税となり、US Residentに
    なる3年目からは給料から天引き (Withhold)されます。間違って1−2年目に天引き
    されている場合にはすぐに雇い主に連絡して中止してもらって下さいすでに天引きさ
    れてしまった場合には、IRSにForm 843 (Claim for Refund and Request for Abatem
    ent)を提出して下さい。詳しくはpublication 519, page 39, Social Security and
    Medicare Tax--Refund for Taxes Withheld in Errorをご覧下さい。

  3. 連邦税 (Federal Income Tax)
    1. Statusの決定

      まず初めに自分がNon-resident AlianであるかResident Alianであるかを決定しま
      す。これを規定するのがSubstantial Presence Testです。2年前からのアメリカ滞
      在日数から算出した数字でどちらに当てはまるかが決まります。ただしJビザ保持者
      はExempt Individualとして、滞在日数が計算されなくなりますから、2年 (Calende
      r Year) 目まではNon-residentの扱いとなります。
       Non-resident Alianは、アメリカ以外での収入は免税となります。3年 (Calender
      Year) 目からはResidentとなり、アメリカ国外での収入も申告しなければなりません。
      3年目からはSocial Security Taxも義務となります。
      Exempt Individualである証明としてForm 8843 (Statement for Exempt Individuals
      and Individuals With a Medical Condition) を一緒に提出する必要があります。
      収入の有無にかかわらずJビザ所持者全員(配偶者、子供も)が提出を義務づけられ
      ていますので、忘れずに提出して下さい。

    2. Taxpayer Identification Number

      Tax Returnには家族全員のTaxpayer Identification Numberが必要になります。J-
      1ビザ保持者はSocial Security Number (SSN) がありますが、 J-1ビザ保持者の配偶
      者や子供などのSSNを取得できない外国人居住者はこの代わりにIndividual Taxpayer
      Identification Number (ITIN) を取得しなければなりません。Form W-7をIRSに提出
      するとITINが交付されます。最低でも1ヶ月はかかりますので早めに準備しておきま
      しょう。Goverment CenterのJFKビルディング7階にあるIRSの支部にいけば直接申し
      込みができます。

    3. Tax Treaty

       日米間にはTax Treatyがあり、これにより日本人研究者は丸2年間は給料にかかる
      税金が免除されます (Article 19 of the United States - Japan tax treaty)。銀
      行の利子にかかる税金は免税の対象となりませんのでご注意下さい。ただし実際には
      種々の控除により、よほど高額の銀行預金でもない限り税金を払うことはありません。
      Tax Treatyの有効期限はアメリカに到着した日から丸2年間ですから、3年目は途中
      (丸2年経過してから受け取った給料)から税金の義務が生じます。
       Form 8233をPublication 519のAppendix B(for teachers and researchers) と一
      緒にPayroll Officeに提出しておけば、給料からの源泉徴収をされなくなります。銀
      行の口座もNon-resident扱いにしておいてもらえば利子の源泉徴収をされずに済みます。
       ただし、 Article 19 of the United States - Japan tax treaty によると、Tax
      Treatyの対象は「一方の締約国の政府又は当該一方の締約国内にある大学その他の公
      認された教育機関の招請により大学その他の公認された教育機関において教育若しく
      は研究又はこれらの双方を行うことを主たる目的として当該一方の締約国内に一時的
      に滞在する個人」とされているため、Rev. Rul. 77-175を根拠に「病院の研究者はこ
      れに該当しない」として1年目から所得税の源泉徴収を行っている施設も一部ありま
      す。その場合はTax Returnで還付請求をするしかありません。
       Tax Treatyの日本語訳はhttp://ny.cgj.org/btc/btc_2j.htmlでご覧いただけます。

    4. 提出書類、提出先、および提出期限

       1年目、2年目はNon-residentなのでForm 1040 NRを提出します。扶養家族のいな
      い人は多くの場合Form 1040NR-EZで代用できます。夫婦でのJoint Returnは原則とし
      てできませんので、夫婦別々に提出します。子供は扶養家族に含められますので提出
      する必要はありません。 給料の証明であるW-2と銀行の利子の証明であるForm 1099-
      INTを添付します。
       1996年までは給料の有無にかかわらず申告が義務づけられていましたが、それ以降
      ははアメリカでの「課税所得」が全くなければ申告の義務はなくなりました。ただし、
      何を持って「課税所得」とするかについてはいまだに公式見解がまとまっていません。
      従って、アメリカでの収入が全くなく、銀行口座も持っていなければ提出の義務はあ
      りませんが、たとえ免税扱いでも何らかの収入がある場合には申告をしておくべきで
      す。また、収入の有無にかかわらずForm 8843 (Statement for Exempt Individuals
      and Individuals With a Medical Condition) の提出が義務づけられていますので、
      こちらは必ず家族全員の分を提出して下さい。

       3年 (Calender Year) 目の申告は少し複雑になります。JビザによるExempt Indiv
      idualの期間が2年目で終了しますので、3年目からはResidentとなります。従ってF
      orm 1040(扶養家族がいなければ1040-EZで代用可能)を提出します。夫婦でJoint R
      eturnを提出することができます。
       日米間のTax Treatyはアメリカに到着した日から丸2年間有効ですから、丸2年経
      過するまでにもらった給料は課税対象になりません。このことをIRSに申告しなけれ
      ばならないのですが、Form 1040にはTax Treatyについて記載する項目がありません。
      そこで、Form 1040 NRのPage 5, Other Informationに必要事項を記入してForm 1040に添えて提出します。Form 8843も忘れずに提出して下さい。 Form 1040のLine 7, Wages, salaries, tips, etcには、丸2年経過した後の給料の総額を記入して下さい。

      提出期限は4月15日ですが、源泉徴収がされていない場合は6月15日になります。
      提出先はInternal Revenue Service Center, Philadelphia, PA 19225です。

    5. Departing Aliens

       アメリカ国内で収入があった人は、帰国する前にはForm 1040-C (U. S. Departing
      Alien Oncome Tax Return)を提出して必要な税金を支払った上で、Departing Permit
      を手に入れる必要があります。帰国後に改めてTax Returnを申告して下さい。必要書
      類はアメリカ大使館内のIRSの支部で手に入ります。

    6. Dual Status Tax Year

       2回目の年末を越えてアメリカに滞在した後に帰国した場合、最後の年はDual-Stat
      us Tax Yearとなります。つまり、アメリカ滞在中がResident、帰国後がNon-residen
      tとなります。この場合はForm 1040 NRまたは1040 NR-EZを提出して下さい。Formの
      一番上に「Dual-Status Return」と大きく書いて下さい。またResidentであった期間
      の収入を申告するstatementを添付して下さい。Statementには必ず名前、住所、Taxpayer Identification Numberを記入して下さい。Form 1040をstatementとして用いることもできます。その際は一番上に「Dual-Status Statement」と大きく書いて下さい。
       さらにResidency Termination Dateを申告します。必要事項は、
      1) 名前、住所、ITIN、visa number
      2) Passport numberと発行国名
      3) Tax Returnの年度
      4) アメリカ滞在の最終日
      5) 帰国後、日本で課税対象者となっていることの証明
      6) Residentの最終日
      7) 除外した日があればその日付と、その間に日本で課税対象者となっていることの証明
      です。Tax Returnの申告の必要がない場合は、この申告書をIRSに送って下さい。

    7. 記入上の注意

       1040NRの場合、2年目までは、給料はpage 1, line 8, Wages, salaries, tips, e
      tcには記入せず、line 22, Total income exempt by a treaty from page 5, Item M
      に記入します。Item MのThe applicable tax treaty articleは、Article 19 of the
      United States-Japan Tax Treatyになります。

  4. 州税 (State Income Tax)
    1. Statusの決定

      州税の場合は、 Massachusettsに定住している人に加えて、MassachusettsにTax Y
      earのうち183日以上滞在して、居所(permanent place of abode、domitory roomは
      含まず)を構えている人がResident扱いとなります。つまり、Jビザ保持者の場合は、最初の2年 (Calender Year) はUS Non-residentで、かつMassachusettsのResidentという扱いになり得るわけです。

    2. Tax Treaty

       日米間のTax Treatyは、Massachusettsの州税にも適用されるため、丸2年間は免
      税扱いになるはずです。 ただし、1998年よりTax Formが改正され、そのInstruction
      によると「If you were a qualifying student」となっており、文字通りに取れば研
      究者は適応外ということになってしまいます。これについては詳細不明です。とりあ
      えずはInstructionの記載を無視してしまっていいのではないかと考えます。
       Massachusetts Ajusted Gross Income(Total IncomeからDeductionsを差し引いたもの)が$8,000以下なら州税のTax Returnは提出する必要はありません。従ってTax TreatyによりJビザ保持者はほとんどの場合、最初の2年間は州税のTax Return提出の義務はありません。ただし、提出しておいた方が間違いないのは前述の通りです。

    3. 提出書類、提出先、提出期限

      Non-residentはForm 1-NR/PY、ResidentはForm 1をそれぞれ提出します。W-2を添
      付します。夫婦でJoint Returnを提出し、子供は扶養に入れられます。提出先はMassachusetts Department of Revenu, Boston 02204で、支払い義務がある
      場合はPO 7003、Refundがある場合はForm 1でPO 7000、 Form 1-NR/PY でPO 7054になります。提出期限は4月18日です。

    4. 記入上の注意

      Schedule Y. Other Deductions. 4. にTax treatyで免税となる給料の額を記入し
      ます。Income code numberは18、Tax treaty article citationは1973-1.C.B.630で
      す。 U.S. Form 1042-SはW-2を添付してあれば提出する必要はありません。

担当 Ohashi,T