とりあえず完成

ボストンで産む人のための

出産ガイド

とりあえずこれだけ知っていれば出産できます。

Last update: May 20,1996


はじめに

 言葉と習慣の異なる国での出産は、大変不安なものだと思います。私たちは第2子をボストンで授かりましたが、出産前にはアメリカでの出産経験者の方にいろいろお話を伺ったり、同じ妊娠中のご夫婦たちと情報交換をしてできるだけ予備知識を得るように努めました。その甲斐あって、実際の出産は比較的スムースに終えることができたと思います。  このガイドは、私たちの体験記そのものです。少し状況が異なる方には役に立たない部分もあるかも知れませんが、何かのご参考になれば幸いです。

医療保険と外来産科医を選ぶ

 アメリカの医療保険制度

 ご存じのように、アメリカには国民皆保険制度がありません。そのため、自分でどの医療保険に入るか選択する必要があります。各産科医は、いくつかの医療保険会社と保険取り扱い契約を結んでいますが、必ずしも全ての会社と契約するわけではありません。また後述するように、最近増えているHMO形式の医療保険に加入すると、通常の外来診療はHMO直営の診療所で受けるように決められていることが多いようです。したがって、医療保険を選んだ時点で、どの産科医にかかるかはある程度決められてしまうことになります。

 保険を先に選ぶか、医師を先に選ぶか、できれば後者にしたいところですが、実際には保険契約時点で病気にかかっていたり妊娠していない限り、そういうケースは少ないでしょう。したがってここでは保険の選択を中心に説明したいと思いますが、その中でやはりどの医師にかかるかも大きな要素になってきます。

 なおあらかじめお断りしておきますが、医療保険の中には妊娠・出産をカバーしていないものや、出産のための入院が一泊しか認められない保険もあります。しかしここで採り上げる保険は一応全て妊娠・出産をカバーしており、入院も二泊が認められているようですので、ここではそのような前提で話を進めます。もし他の保険を考慮される場合には、妊娠・出産がカバーされるか、あらかじめ確認が必要です。

 さて、基本的にアメリカではどのような病気であれ、あるいは全く病気がなくても定期的に、Primary Physician(家庭医と訳されることが多いが、必ずしも家族全員同じ医師にかかる必要はない)を受診するのが一般的です。このPrimary Physicianが専門医に紹介する必要があると考えたときに初めて、紹介状をもらって専門医を受診します。またPrimary Physicianが自分で入院治療の必要があると考えたとき、あるいは専門医が入院の必要ありと判断したときには、その医師が病院でも主治医となります。ただ出産の場合は、分娩に立ち会った当番の産科医が入院中は主治医になります。

 現在アメリカの医療保険は、政府の運営するMedicare(高齢者向け医療保険)やMedicade(低所得者向け医療保険)の他は、基本的に私企業として運営されています。従来型の医療保険は日本のそれと類似していて、その保険と契約している医師であれば、州や国を問わず(といっても通用するのはカナダぐらいですが)受診できます。Blue Cross Blue Shieldsが最大手で、また事実上我々が加入する可能性があるのはこれだけでしょう。そして最近、医療費節減の上で積極的に推進されているのが、Health Maintenance Organizations (HMO) です。こちらはHarvard Comunity Health PlanやNeighborhood Health Planが、我々の周辺では良く耳にする名前です。ちなみに、Massachusetts州では、40%にあたる200万人がHMOに加入しており、その内HCHPとBC/BS HMO Blue(BC/BSの提供するHMO、詳しいことはわかりませんが、 後述するBlue Care Electとは別のものだと思います)が約40万人ずつを占めています。

 Blue Cross Blue Shields

 BC/BSの中では、$6,000 以上の年俸を支給される場合にbenefitとして申し込むことができるBC/BS Master Health、BC/BS Blue Care Elect、BC/BS Major Medicalと、給料を支給されていない研究者および学生向けに大学で用意しているHarvard University Students and Affiliates Health Planが主な選択肢でしょう。benefitが受けられる人は、まず大学のプランを考慮する必要はありませんし、逆に給料をもらっていない人は大学のプラン以外選択肢はまず無いと言っていいでしょう。

 BC/BSでは、制度的にはPrimary Physicianをひとりに決める必要はありません。妊娠したかなと思ってからすぐに、自分の行きたい産科医に直接アポイントをとって受診しても良いのです。ただし、大学のプランは例外です(後述)。また、あらかじめPrimary Physicianを決めておき、年一回の定期検診を受けておくことは悪いことではありませんし、これも保険でカバーされるはずです。

 benefitとして用意されているプランのうち、BC/BSと契約している医師ならマサチューセッツに限らずどこでも同じようにカバーされるのがBC/BS Master Healthです。これが日本の医療保険と最も近い、基本形と考えていいでしょう。通常2割が自己負担(co-payment)となります。
 そして後述するHMOの良い点を取り入れて作られたプランが、BC/BS Blue Care Electです。このプランでは、マサチューセッツ州内の医師のうち、BC/BSが特に契約した医師を受診すれば自己負担なしで受診でき、それ以外の医師(もちろんBC/BS取り扱い医)を受診した場合は2割自己負担というものです。しかもMaster Healthより保険料は低くなっています。どうして保険料が安く押さえられているのか本当の所はわかりませんが、特に契約している医師といってもBC/BSの利益を考えてなるべく安く診療しているという感じではなく、必要な検査や処置に絞って行うことのできる優秀な医師と契約しているようです。この点が後述するHMOとの違いと言えるでしょう。
 BC/BS Major Medicalは、絶対に病気にかからないという自信のある人向けで、保険料は極端に安いものの、もし病気になったらほとんど自己負担させられるので、避けた方が無難でしょう。

 Harvard University Students and Affiliates Health Planについては、とにかく保険料が高いのが難点ですが、その代わりどこを受診しても自己負担はありません。制度的にはUniversity Health Serviceという診療所の医師をPrimary Physicianとし、ここから産科医を紹介してもらう形になります。直接産科医を受診することも可能なようなのですが、UHSに問い合わせるとまずうちを受診するようにとの返事が返るばかりです。どうしても無駄を省きたいときは、BC/BSの顧客サービスか、産科医に電話で問い合わせると良いでしょう。なお、UHSはChildren's Hospitalの向かいにあり、場所としては便利です。ただし小児科はホリヨークセンターにしかありません。産まれた子供はホリヨークセンターまで定期検診につれて行かなくてはなりません。

 さて、どこの産科医を紹介してもらうかはこちらで希望できます。評判がよいところは、Brigham and Women's Hospitalの中にOfficeを構えるBrigham OB/GYN associates(500 Brookline Ave., 732-6399)と、ブルックハウスの前のNew England OB/GYN associates(One Brookline Place, 731-3400)でしょうか。結局夫も通訳代わりに受診しなくてはいけないという場合や、今日すぐにBrighamのCenter for Women and Newborns(CWN)で超音波を撮ってくるようになんて時はBrigham OB/GYNが便利ですが、家が近ければNew England OB/GYNもいいと思います。Brigham OB/GYNでは分娩はクリニックの医師のうち、当番の医師がBrigham and Women's Hospitalで行います。NE OB/GYNでは医師ごとに分娩する病院が異なるので、初診時(ナース; RNに受診する)に確認しましょう。

 Harvard Comunity Health Plan

 HMOについては、最もポピュラーなHarvard Comunity Health Plan(HCHP)を中心に述べたいと思います。HMOは、医療費を削減するという点で近年注目され、また増加している保険形態です。当然保険料はBC/BS Master PlanやBlue Care Electよりも低くなっています。なぜ医療費が削減されるのでしょう。そのしくみは、緊急時以外は必ずHMO直営の診療所を受診するように定め、HMOに雇われた(単なる契約ではありません)医師が診療に当たるため、医師が医療費を安く上げることを目的の上位にランクすることができるからです。このため余程のことがない限り、検査や専門医への紹介はしてもらえないことがあり得ます。また専門医といっても当然そのHMOを取り扱っている医師に限られ、しかも評判の高い病院でも取り扱っていないことがしばしばあります。HMO専属の医師も紹介先の専門医も、しばらく前は優秀とは言いがたい医師ばかりだったとの評判ですが、最近では医師過剰のためほぼ改善されたそうです。なお蛇足ですが、HCHPは"Harvard"と付いているもののHarvard Universityとは何の関係もありません。
 何だか良くないことばかりのようですが、実際には正常分娩や日常の風邪程度の医療を受ける分には全く問題はないでしょう。ただし、州外ではNew England内でさえほとんど取り扱ってもらえません。緊急時はどこを受診しても保険診療が受けられることになっていますが、子どもが旅行先で熱を出したといった程度では緊急と認めてもらえないようです。小さな子どもを連れて旅行に行くことがある人は、このことを考慮する必要があるでしょう。なお自己負担は一回の受診につき$10です。
 直営診療所は、Brookline Villageの他、KenmoreとChestnut Hillにあります。分娩はBrigham and Women's Hospitalで行います。もちろん分娩にあたる産科医は、HCHPの医師です。

妊娠の判定と初診

 妊娠したかな?と思ったら、尿を検査することで妊娠の有無を判定するのは日本と変わりありません。CVSなどのdrug storeに妊娠判定キットがおいてあるのも同様ですが、これは保険ではカバーされないでしょうから、まずprimary phisician(多くはそこのRN;看護婦)を受診することになります。看護婦の受診はそれほど混んではいないのが普通ですが、あらかじめ予約を入れる必要はあります。この日は時間をかけて問診をされますから、英語が心配なら夫に付き添ってもらった方がよいでしょう。この日に尿を取り、2日ほどで結果が出ます。電話で結果を問い合わせることもできるでしょうし、あるいは再度受診するように指示されるかも知れません。ここで妊娠と判定されると、再び受診の上、専門医を紹介(referral)してもらうことになります。また、この際総合ビタミン剤を処方されると思います。これは妊娠中にビタミン(主にB12や葉酸)を服用した方が、二分脊椎や無脳症などの神経欠損児が生まれる率が有為に低かったとする一連の研究結果(NEJMなどに掲載された)を踏まえたものです。日本では一般的ではありませんが、造血にも必要なビタミンですから、服用することに問題はないでしょう。ただし、ビタミンAを妊娠中に取りすぎると逆に奇形率が高いとの報告が1995年にやはりNEJMに出ており、普段からビタミン剤などを服用しているような方は、相談の上どちらか一方のみを服用するようにした方が良いでしょう。

 さて日米では、妊娠期間の数え方が異なるので注意しましょう。 WHOの決定で、最終月経の始まった日を第1日とし、その週が0週になるのは良いのですが、日本では0〜3週が1カ月であるのに対し、こちらでは5週までを1カ月とします(つまり排卵=受精から数えるわけです)。そして、初めて産科医を受診するのは10週、すなわち3カ月目となります。この時も初めはRNを受診することになると思います。この日は30分〜1時間かけて問診を受けます。やはり夫婦同伴で受診した方が良いでしょう。既往歴や家族歴などを詳しく訊かれますが、英語はさすがに 医学用語なのでMDの方なら困ることはありません。ただ私は、受付で渡された質問票の中の、prostitutionの既往があるかという質問の意味がわかりませんでした。受付で尋ねたところ、いやあなたの奥さんは関係ないから結構ですと言われましたが、それでもどういう意味なのかと訊いたところ、なんと売春という意味だそうで、恥ずかしい思いをしました。
 この受診の際に、産科医の先生やそのクリニックの基本的なポリシーについて知りたいことがあれば、遠慮なく質問しましょう。先生の年齢や経験度、実際の出産に立ち会ってくれるかどうか(医療訴訟回避のため立ち会わない医師も多いらしい)、またこちらでは少数派の無麻酔分娩の経験が豊富かどうか(もちろん無麻酔を希望する場合はですが)などは必須項目でしょう。ベテランの医師を望む場合は、はっきりそう言えば希望通りの医師を受診させてくれるはずです(もちろん一度受診してから代えてもらってもかまいませんが)。そして次回の産科医の診察日を予約して帰ります。co-payment(自己負担金)がある場合は、受付で支払いをします。

検査

 妊娠中に行われる検査は、回数にすると日本に比べ非常に少ないと言えます。しかし、血算や風疹抗体価、HBs抗体など、必須と思われる検査はもちろんカバーされています。なお、超音波は基本的には1回のみ行われます。ただ、日本人の場合、週数に比して胎児が小さいと言われて出産前に何度か超音波を受ける人も多いようです。

 AFP検査

 日本で行われていない検査としてここでは特に、AFP検査について説明したいと思います。これは基本的には患者の同意を得てから行う検査です(もちろん保険は適応されます)。妊娠の初期に採血で行われる検査で、実際にはAFPを含めた3項目を測定します。超音波で発見が困難な軽度の二分脊椎や無脳症も、AFPの高値として発見され、これについては特異性もかなり高い優れた検査と言えるようです。この場合はgenetic cousellingの上、羊水検査や超音波検査でさらに詳しい検査を行い、その後出産するかどうかは最終的に親が判断することになります。

 問題は低値の場合です。これら3項目の値と妊婦の年齢などを用い、おそらくは重回帰式に当てはめていると思うのですが、ダウン症候群のリスクが算出されます。しかし実際には例えば正常児の場合のAFPの平均値とダウン症児の場合の平均値は近接しており、ほぼ1SD程度の違いしかありません。従って平均からちょっと低い程度で、ダウン症のリスクありと判定されてしまうのです。例えば妊婦が25〜30歳の場合、一般にダウン症児の生まれる確率は800人に一人程度だそうですが、これが例えば230人に一人と判定されます。そしてこの230人に一人という確率を高いと思うか低いと思うかは、親の側の判断に任されることになります。

 実際にはやはりgenetic counsellingに進むことになります。ここでダウン症とは何か、実際の確率がどのような根拠で算出されたか、さらに詳しい検査としてどのようなものが挙げられ、その検査に伴うリスクとしてどのようなものがどの程度予想されるかなどの説明を受けます。詳しい検査としてはやはり超音波と、羊水中AFP検査および染色体検査があります。超音波はもちろんリスクゼロですから、実際には280人に一人が流産の危険がある羊水検査を受けるか受けないかの選択となります(実はgenetic counsellingの1時間後に予約はされています)。ダウン症のリスクありと本人に告げる基準を、羊水検査による流産の危険を上回った場合としているというのですが、正直なところこれが妥当な基準かどうか難しいと思います。正常な子どもを流産するのがよいか、ダウン症の子どもを持つのが良いか選べと言うのですから、随分酷な話です。個人的な意見は控えさせて頂きますが、かなり強い不安感を感じた方は、これから出産まで不安な毎日に耐えられるかどうかが実際には大きな選択の基準になるのではないでしょうか。

 羊水検査そのものはご存じの通り非常に簡単な検査です。結果は7〜10日で出ます。ついでに100%確実な子どもの性別も、希望すれば教えてくれます。

産前講習と病院見学

 産前講習は毎週木曜日の夕方に6週間かけて行うクラスと、土日に3週で行うクラスがあります。経産婦の方はリフレッシュメントクラスもあり、これは2〜3回で終わります。いずれも有料ですが、どうしても必要な知識は、過換気にならないための呼吸法ぐらいなので、どうしても受けなければいけないということはないでしょう。初産の方で、呼吸法などの知識を他で得られない場合は受けられることをお勧めします。出産予定日の1カ月前までには終わるように予定を立てる必要がありますが、ぎりぎりに申し込むと満員で後にずらされる場合もあるようですから、早めに電話で(病院から送られてきたパンフレットを参照して下さい)申し込みましょう。なお、HCHPでは独自の講習会を開いているようです。UHS(University Health Service)も独自のクラスを開いており、これは無料です。

 病院のツアーは無料です。日曜日の午後に行っており、やはり電話で申し込みます。早口の英語で説明されるので良く解りませんでしたが、実際出産する設備を観ておく価値は十分にあります。

育児用品の準備

 育児用品については、日本のものと作りや品質が異なることが多く、全く同じように揃えることは難しいと言えます。基本的には新生児の肌や身体の要求にあったものであれば良いわけなので、そういう意味で良い品を捜すことになると思います。

陣痛が起こったら

 初産婦の場合は陣痛が5分おきになったら、経産婦の場合は7〜8分間隔になったら病院に向かいます。破水などしていない限り、予め電話をする必要はないようです(電話をしても医者のポケベルを鳴らしたいのか?と訊かれるだけです)。昼でも夜中でも、main entranceに車を乗り付け、valet parkingに頼めば良いのですが、駐車料はしっかり取られます(仕方ないか)。入り口を入って右側のObsterics Administration(売店とトイレの間です)で受付をすますと、後は係りの人が案内してくれます。分娩部(CWN 9階)では簡単な受付の後、陣痛室に入ります。ここは分娩室およびリカバリー室も兼ねており、すなわち病室に移るまでの間はここから動くことはありません。

 病院に持参すべき携行品のリストは、病院より送られてきたパンフレットに書いてあります。なお、病院内も空気は乾燥しているので、お産で激しく呼吸すると喉が乾燥するそうです。アメを数個持って行くと良いと勧めてくれた人もありました。

 陣痛室では、胎児の心音および子宮の収縮をセンサーでモニターしますが、これは日本と変わりありません。子宮口の開大の程度を始めはmidwifeが、ある程度に達すれば医師が診察する点も同じです。。基本的に看護婦ないしmidwifeがひとり付いていてくれますが、陣痛の間隔がまだ長かったりする場合には、暫くは放って置かれる場合もあるようです(基本的にはまだ来るのが早すぎたのでしょう)。また、病院に来てから陣痛の間隔がまだ長いと言われ、家に帰される場合もあるようです。

 硬膜外麻酔(epidural)を希望するかどうかはこの時に訊かれます。予めある程度決めていった方が良いでしょう。無麻酔で産もうと思っていたが、あまりに痛いのでその場で麻酔を希望するということももちろん可能です。ただし、ある段階を過ぎると変更はできませんから、心配な人はいつまで変更可能か訊いてみると良いかも知れません。また経産婦の方では病院に着いたときには既に麻酔のタイミングを過ぎてしまっており、麻酔を希望していてもできない場合もあります。

分娩

分娩に移るタイミングは、日本と同様子宮口が10cmに開大したときです。「力んで」という英語は「push !」、「力を抜いて」は「relax」です。基本的にはこれだけ解っていれば十分です。会陰切開(episiotomy)は必ず行うというわけではないようですが、大抵必要となるということです。なお、切開部の縫合糸には吸収糸を使いますから、抜糸の必要はありません。

 分娩台には足を載せる部分がありません。片足をmidwifeが、もう片方を夫が支えるという形で、しかも足に力を入れず、下腹部に力を入れるよう指示されます。さらに手で掴むものがなく、大抵シーツか夫の服を掴むということになります。これは機械的な雰囲気を廃するためなのでしょうが、非常にやりにくいという人もいるようです。少なくともどういう体勢で分娩するのか、イメージとして持っていた方がその場で悩まなくてすむと思います。

 赤ん坊が生まれると、まず母親の胸に抱かせてくれます。もちろん父親にも権利はあります。分娩の瞬間は結局夫も足を支えたりでビデオなどを撮っている余裕はありませんが、この時にビデオを撮ると良いでしょう。ただし後でみんなで見ることができる映像を撮るよう心がけましょう(つまり見せられないところが入らないように注意する)。

リカバリーとナーシング

 分娩後2時間の間、出血などの確認のため、そのまま分娩室で過ごします。この間、枕元の電話から外へ電話をかけることもできます。国際電話のかけ方は看護婦に訊いて下さい。二桁の番号をダイヤルすると、まず相手の電話番号(011-81+)をダイヤルするよう指示されます。その後オペレータが出て、支払方法を訊かれます。キャッシュカードが便利です。料金は家からダイレクトにかけるよりずっと高くなります。病室に移ってからも同じように電話が使えます。また病室の電話はそとからダイレクトにつながるようになっていますから、必要な人にまず電話をかけてその番号を伝えておくと良いでしょう。ただし、退院するまでの間しかかけられないことをよく説明しておきましょう。その必要があることは、たくさんの間違い電話がかかってくるのですぐに実感できます。

 病室は比較的快適に過ごせます。夫は24時間付き添えます(簡易ベッドが用意されています)。面会時間は一応昼過ぎから夜8時までですが、朝から子どもを連れて行っても何も言われませんでした。食事はメニューリストに印を付けて注文する形です。トレイに載りさえすれば好きなだけ注文して構いません(つまり家族の食事をまかなえます)。一品一品が少ないので、多めに注文しておいた方が良いようです。また、各階にある小さなキッチンにコーヒー、ジュース、マフィンなどが置いてあります。

 看護婦は呼んでもなかなか来てくれません。特に夜は人数が少ないためでしょう、しつこく呼んで下さい。赤ちゃんは日中であれ、夜中であれ、希望する場所(新生児室か母親の病室)で希望する方法でみてくれます。一番多いのは、昼は親が全て面倒を見て、夜は身体の回復のため新生児室にまかせるというパターンです。この場合昼は母乳、夜は人工乳ということも可能ですし、時間ごとに連れて来てくれと頼むこともできます。なお、病院内では赤ちゃんは側臥位、廊下の移動はクリブの中とに決められています。紙おむつや人工乳、衣類は全て用意されています。ただし、退院の際には持参した衣類を着せることになりますので、忘れないように。

命名と出生証明書

名前については、日本名と米国名を全く別の名前にすることもできます。また米国名のミドルネームは、つけてもつけなくても構いません。

 出生証明書は、入院中に係りの人が病室を訪れて、赤ちゃんの名前その他を聞いて行きます。この内容を基にタイプ打ちした出生証明書を後に持ってきますから、内容を確認してサインします。これに出産に立ち会った医師がサインし、それを病院がボストン市に送り、またこちらからボストン市に手数料を小切手で送ると、自宅に出生証明書が郵送されることになります。小切手の郵送先などは、係りの人が渡してくれる説明の紙に書いてあります。

 ここで注意しなければならないのは、米国パスポートの申請などのため早めに出生証明書が欲しい場合です。医師はかなり書類をため込んでからサインするらしく、一月ぐらい軽く放っておかれます。出産に立ち会った医師は毎朝診察に訪れますから、すぐにサインするよう、頼んでおきましょう。病院からボストン市への送付は、毎週金曜日の午後一時に運搬人が取りに来るそうです。この日から10日から14日で自宅に出生証明書が届きます。

日本国籍の取得と日本国パスポートの申請

 日本国籍の取得は、出生から3カ月以内に領事館に出生届を提出することになっています。出生届には出生証明書を添付する必要がありますが、これはボストン市の発行したものである必要はなく、出産に立ち会った医師の書いた証明書でOKです。あらかじめ領事館に電話で頼んでおくと、出生届の用紙の他、英文の証明書式を送ってくれます。2枚ありますから、2枚とも医師に記入してもらっておきましょう。なお、英文の証明書とともに、和訳を提出する必要がありますが、この用紙も領事館から送ってくれる書式一式に含まれています。日本名と英語名が異なる場合は、この和訳の部分に断り書きをする部分があります。

 日本国パスポートの申請には、以下の書類が必要です。なお、申請、受け取りとも、赤ちゃんを連れていく必要はありません。

 パスポートは申請から1週間後に領事館に受け取りに行かなくてはなりません。その際、受取人のphoto IDが必要です(パスポート、免許証など)。 米国国籍の取得と米国パスポートの申請

 アメリカは出生地主義を採っているため、米国領土内で生まれたこどもは米国籍を取得できます。と言うより、病院でサインした出生証明書がそのまま出生届に相当します。多分日本の法によるのだと思いますが、子どもは18歳に達すると、どちらかの国籍を選択しなくてはなりません。一応その届をしないと、日本国籍を失うことがあるとされています(実際は誰が二重国籍を持っているかは確認のしようがないそうですが)。アメリカの法では実際に成人で二重国籍を持っている人がいるところをみると、おそらくそのような規定はないのだと思います。
 仮に米国籍の取得を望まない場合、あるいは米国のパスポートの発給を受けない場合、一応米国に滞在する以上、ビザを取得する必要があります(実際にはビザの提示を求められるようなことは無いでしょうが)。また日本国のパスポートさえあれば米国を出国し、日本に入国することはできると思いますが、ビザがない限り米国に再入国する事はできません。場合によっては、ビザなしで滞在していたことを理由に、ビザの発給そのものにクレームがつく可能性もあります。ビザの発給にはIAP-66の変更が必要になりますし、結局パスポートを申請するのと同じかそれ以上の労力を払わなくてはならないと思われます。
 米国のパスポートは主要都市にあるpassport agencyか、一部の郵便局、裁判所で申請することができます。ブルックライン郵便局(Beacon St.)でも受け付けているようです。ボストンのpassport agencyは、下記にあります。TではGreen lineのNorth Station下車。Fleet Centerの左隣です。

Boston Passport Agency , Thomas P. O'Neill Federal Bldg., Rm. 247, 10 Causeway Street Boston, MA 02222-1094, Phone (recorded info.) 617-565-6990

 申請に必要な書類は下記の通りです。

 さて申請から発行(郵送されます)まで約2週間だそうですが、大至急パスポートを入手したい場合(一応5営業日以内ということになっています)は、飛行機の切符を見せ、手数料を$30余計に支払えば、3営業日目に発送してくれます。ただし郵便局から申請する場合は、郵便局からpassport agencyまでの郵送を特急にしてもらわなくてはなりませんので、その分余計に郵送料がかかります。

 なお、米国パスポート申請に関する情報は、http://dosfan.lib.uic.edu/www/travel_tips/capass2.htmlまたはPASSPORT SERVICESで得られます。