resident体験談

  1. 米国レジデント事情
    1. レジデントに必要な資格

    米国外の医学校を卒業した医師が米国内で臨床研修をするにはECFMGcertificateが必要でこれを取得するために以下のような過程がある。 まず、USMLE(united states medical licensing examination)のStep1(基礎医学),Step2(臨床医学)、English test (ECFMG English or TOFEL)にパスしなければならない。98年7月以降さらにCSA(clinical Skills Assessment)に合格することが義務づけられた。CSAは病歴聴取、診察手技、問診、医療チームにおける文章によるコミュニケーション会話能力を評価される。CSAは世界中でPhiladelphiaでのみ受験することが出来る。アメリカ人を相手にした問診や診察手技をある程度経験していないと合格は困難であろうと予想される。さらに99年秋よりUSMLE,TOEFLが全てコンピューター化された。試験期日の指定はなくなり一年間に2回だけ指定された試験場で受験出来るようになった。昨今のポジション獲得の困難な状況では少ない回数で高得点(80%以上)をあげて合格することが今まで以上に要求される。参考書については下記の書籍を参照のこと。エクスターン等レジデントに入る以前の臨床研修については横須賀海軍病院、沖縄中部病院の研修あるいは野口医学研究所のプログラムがある。

    1. ポジションの獲得

    近年連邦政府の方針によりレジデント特に外国人レジデントを雇わなかった病院に報償が出たり、イリノイ州のように全く外国人レジデントを受け入れない州がでてきたり非常にポジション獲得に厳しい状況になってきている。一般にレジデントポジションの獲得は各プログラムに願書を送り面接を受けた後NRMP(National Residency Matching Program)を通じて行う。外国人のapplicantはなかなか面接に呼ばれる所までも行かないようである。最低でも面接に呼ばれるためにはよい推薦状をしかるべき権威のある人からもらうことが重要である。希望する病院でエクスターン等の実習を通じて自分を売り込むとか、自分がリサーチをしている病院のボスに頼むといった手段も考えられる。さもなければUSMLEで非常な高得点(90%以上)をあげて選考者の目を引くしかない。5、6年前は外国人にも比較的入りやすかったプログラム(Anesthesiology, Family Practice,Pediatrics, Radiologyなど)もどんどんポジションが減らされ競争が厳しくなっている。一般外科などよほど特別なコネでもない限りポジションの獲得は絶望的と思われる。Clinical Fellowとして臨床をする手もあるがこの場合も特にプログラムの責任者とのコネが重要である。リサーチをしながら自分を売り込むのが最善の道ではあるまいか。 3月にNRMPでマッチできなかったら電話ファックスをフル活用してめぼしい空きポジションに願書を送る。すぐに行動を起こさないと残っているポジションもすぐに埋まってしまう。 野口医学研究所や東京海上のプログラムは日本から直接応募する場合はコンタクトしておくと良い。

    1. ビザの問題

    レジデントの可能なビザはJ1、H1B、あるいはグリーンカードである。日本から
    直接応募して運良くポジションが獲得できた場合にはJ1で働くことになるが後々
    H1bなどほかのビザに変えるのは困難である。レジデントの後も米国内に残るつ
    もりならばポジションの獲得前にすでに米国内にいる場合researcherのJ1をH1b
    に変えておく方が賢明であろう。

    1. 参考書籍、臨床研修プログラム

    アメリカ医学留学ガイド 吉岡 宏晃 著  南江堂
    アメリカ臨床医学留学への道 照屋 純 編 メディカルサイエンスインターナ
    ショナル

    野口医学研究所 〒105 東京都港区虎ノ門1-20-7 5F
    03-3501-0130 fax 03-3580-2490

    東京海上メディカルサービス、Beth Israel Hospital 臨床研修プログラム
    東京海上メディカルサービス
    医療本部長 西元 慶治氏宛
    〒 100東京都千代田区丸の内1-2-1
    東京海上ビル新館11F
    03-3214-1808、fax03-3213-3806

  2. 私のレジデント体験談
    1. はじめに

    医学部卒業後3年間外科の研修を経験しその後4年間臨床大学院で過ごした。大
    学院の大半は研究と事務雑用に費やし臨床はアルバイト当直に限られていた。当
    初直属の上司が次期教授になると信じていたので自分の将来について深く考えて
    はいなかった。だが、その上司が教授選に破れたことで状況が一変した。同じ研
    究グループのメンバーは大学を去り結局自分しかあてにならないないことに気が
    ついた。にもかかわらず自分の臨床経験を含め自信がなかった。また、自分の仕
    事を含め何事も教授のお伺いをたてないと決まらない日本のシステムにもうんざ
    りしていた。その時点で大学に残っていても自分の将来はないと感じ始めた。米
    国の臨床研修システムには学生時代から興味を持っていたが大学院を終了する頃
    からECFMGの資格試験を受けることを真剣に考えた。幸い受験を始めて半年で新
    しく導入されたばかりのUSMLEのステップ1にパスした。が、その時は米国での
    臨床なんて夢また夢の世界だった。その後BWHのSurgical Oncologyに留学する機
    会に恵まれた。reseachのかたわら残ったステップ2とEnglish testをパスし何
    とかECFMG certificate を取得できた。米国で臨床をする夢が現実に近づきレジ
    デントに入るか迷ったが意を決し医局に別れを告げた。もう一度自分を鍛え直す
    べく、最後は自分の一生を決めるのは自分でしかないことに気がついたからだ。

    1. レジデントポジション獲得まで

    レジデント応募を決めてから最初にしたのはHarvardの外科のProfesserでもある
    ラボのボスに推薦状の依頼をすることだった。多くのプログラムが最低三人の推
    薦者要求するので残る二人は日本の出身大学の教授、大学院で世話になった教授
    といぜん勤務していた病院の外科部長に依頼した。最初の年20カ所以上の外科
    プログラムに推薦状を送ったが結局一カ所も面接のオファーはなく現実の厳しさ
    を思い知らされた。また、その時点でJ1ビザのままではレジデントを終えた後帰
    国しなければならないことがわかったのでラボに残って次の年にかけることにし
    た。
    幸い、ラボのボスがスポンサーになってくれJ1からH1bへの書き換えへ非常にス
    ムースに行った。また、研究者としてスポンサーを必要としない永住権の申請の
    仕方があることを知り弁護士を雇った。こちらも3カ月で認可がおり約10カ月で
    グリーンカードを手に入れた。平行して外科、病理のプログラムに応募し病理の
    プログラムからはいくつか面接に呼ばれた。また同じラボの外科レジデントの助
    言をいれマッチしなかったときには麻酔科のプログラムに応募することにした。
    が、やはり現実は厳しくマッチできずスクランブルをかけることになった。20
    以上の麻酔科のプログラムにCV,推薦状をfaxで送り返事を待った。一週間以
    上たってもはやこれまでかと諦めかけたところで2つの麻酔科のプログラムから
    ポジションのオファーがあったが、いずれもインターンシップを終了しているこ
    とが採用の条件だった。現在勤務している病院に面接に行き1年間のインターン
    のポジションを見つけることにした。その後1年がかりで麻酔科のchairmanの口
    利きでBUの外科でインターンシップをすることになった。
    3年間かけてやっと麻酔科のポジションになんとか入れたわけだがつくづく競争
    の厳しさ、外国人のハンディを感じた。レジデントのポジション獲得に重要なの
    は一にも二にも推薦状、コネで、後は面接でいかに自分を売り込むことが出来る
    かである。当然我々日本人の多くが苦手とする英会話もかなりの水準が要求され
    る。もちろん試験の成績もいいにこしたことはない。

    1. 外科インターン

    最初にProgram Directerから言われたのは英会話が上達しなければ1年間のイン
    ターンを終了することは難しいと言うことだった。インターンの始まる半年前か
    ら個人レッスンにつき英会話の上達をもくろんだが、インターンを始めて一月た
    たないうちに呼び出しを受け早急な会話能力の改善を求められた。これはSEVERE
    な警告である。結局2ヶ月間臨床の忙しいスケジュールの合間に個人レッスンに
    通った。最初の一ヶ月間は非常に長く感じた。自分の知らないことがあまりにも
    多く医学生に助けを借りること熨スかった。日本語では知っていても英語でなん
    と表現するかわからないこと、日本にはないシステム(例えばdictation)に慣
    れるには時間を要した。また、カルテがあまりにも悪筆で何が書いてあるか読め
    ない。これも読めるようになるまで時間がかかった。逆におまえの書いたノート
    は読解できるとへんなことで感心されたりもした。
    典型的な外科インターンの一日を描写してみよう。まず朝の回診は6時半から始
    まる。インターンと医学生はその前に自分の受け持ち患者のバイタルサインに目
    を通し診察をして回診に備えるため6時前には病院にいなければならない。回診
    ではチーフレジデントを前に患者の簡単な病歴、バイタル、所見を述べ問題点を
    あげ検査処置の計画を述べる。外科の回診は限られた時間内に20人から30人
    の患者を全て目を通すので要領よくプレセンする事が要求される。回診後急いで
    検査の追加等の指示を出し、8時過ぎには予定手術に入り大体午後3時頃までは
    手術室の中で過ごすことになる。多くの手術例はattending physician(指導
    医)がシニアレジデントに執刀させて、インターンか学生が第二助手につくが、
    ヘルニアなどのマイナーケースではインターンにも執刀のチャンスが回ってく
    る。こちらの方は今までの経験が生きてストレスも少ない。手術室から出てくる
    と午後の回診に備えその日の検査の結果等について情報を集める。午後の回診で
    は検査結果、その日の手術の結果について報告し午後6時か7時頃に当直を残し
    て解散になる。当直は普通3日に一回の割合で回ってくる。自分の担当以外の病
    棟もカバーしないといけないのでその病棟のレジデントから引継を受ける。夜中
    でも容赦なく起こされる。ERから呼び出しがかかると最悪である。患者の病歴、
    診察をしそれをシニアあるいはattendingに報告し入院の必要がある場合には入
    院指示を出す。大抵一人の患者に1時間近くかかる。全く眠れないままに次の日
    手洗いにつくこともよくある。最悪なのは自分も含め誰かが休暇をとったとき
    だ。10日間から2週間、隔日で当直が続くことになる。家についたら食事をし
    てシャワーを浴びそのまま床につく。SICUの当直はずっと2日に一回だった。そ
    れが2ヶ月間続いた。今に ! $7$F;W$($P0lG/4V$h$/BNNO$,B3$$$?$b$N$@$H;W$&!
    #neurosurgeryに始まり、消化器、腫瘍外科、VA Hospital, community
    hospital, Boston Medical Center, Surgical ICUを回り無事一年間を終了し
    た。VA Hospitalではおそらく米国内で現役最古参の外科医,83歳のDr.Rodkey
    と手術をすることが出来た。彼には多くの興味深い薫陶を受けた。Bostonで最大
    のTrauma Centerを持つBoston Medical Center (BMC)の病棟、SICUのローテー
    ションは特にきつかったが、日本ではお目にかかれない貴重な体験が出来た。

  3. 以下思いつくままに私の目で見たアメリカの医療の実際を述べてみたい。
    • Attending Physician

    日本語に直すと上級医あるいは指導医と行ったところか。無事レジデントを終え
    Boardをとると晴れてattendingということになる。レジデントとの給料の格差は
    歴然としていて一桁は多い。多くのattendingは自分のofficeを持ちそこで外来
    診療を手術、入院患者を大きな病院に送ってくる。複数の病院で仕事をする
    attendingも多い。建前上attendingが担当医でありレジデントがattendingの監
    督下に診療をしているわけだ。医療上の責任は全てattendingにかかってくる。

    • Board

      専門医資格のこと。General Surgery, Medicine, Ob-Gy, Pediatrics,
      Anesthesiuologyなどレジデントの間に年1回ずつ筆記試験を受け及第するとレ
      ジデント終了後に口頭試問の受験資格が出来る。口答試問を無事終えると専門医
      としての資格が認定される。胸部外科、血管外科などのsubspecialityのboardは
      clinical fellowship終了が要求される。boardを持っていると就職の時随分有利
      といわれる。

    • Consent

      ご存じInformed Consentのこと。米国の医師が日本より特別丁寧にムンテラをし
      ているとも思えないが特に注意したいのは原則的にconsentに書かれたprocedure
      以上のことは出来ないということだろう。手術、麻酔、輸血にそれぞれ一枚患者
      のサインを必要とする。またHIV等特殊な検査の場合も患者のサインを必要とす
      る。

    • Drug

      日本で一般的なのにこちらで使われていない薬剤もいくつかある。例えばFOY、
      ミラクリッドなどDIC、急性膵炎の特効薬は米国では認可されていない。日本で
      大量に使われ問題になった経口5FU製剤もこちらにはない。逆にTylenolのような
      acetoaminophenの経口薬は日本にはない。いったいどういう根拠に基づいてFOY
      やミラクリッドを我々は使っていたんだろうか不思議に思うこの頃である。

    • ER

      Emergency Room。アメリカでもドラマに出てくるような万能のER physicianはな
      かなかお目にかかれない。ドラマのような慌ただしさもあまり感じられない。救
      急の出来るgeneralist、外科、内科への入院のgate keeperといった印象であっ
      た。外科レジデントにとっては当直の夜のERからの呼び出しはありがたくないも
      のだった。ときどきとんでもない見当違いのER physicianもいた。

    • Fluid

      輸液製剤のこと。米国で主に使われているのはD5 (5%Dextrose), NS (Normal
      Saline), 1/2NS, LR (Lactate Ringer), それにD5NS, D5 with 1/2NSなどの混合
      製剤である。お馴染みのソリタ、フィジオゾール、ELなどはない。高カロリー輸
      液もできあいの製剤はなく原則的に薬局で医師のリクエストに応じて毎朝調合さ
      れる。

    • General Surgery

      外科のトレーニングは厳しく長い。最低5年間の臨床研修の間3日に1回の当直
      をこなし、途中でresearchをすると2、3年余計にかかる。一般外科のBoardを
      とった後、Vascular surgery, Surgical Oncology, Pediatric Surgeryといった
      Subspeciality fellowshipに進めばさらに2年かかる。26歳で医学校を卒業
      した優秀な者でもプラス7年、9年で33歳-35歳でやっと一人前の外科医と
      いう事になる。実際には医学部にはいる前に大抵2年、3年はかかっているので
      平均年齢はもっと高い。一人前になると高収入が期待できるものの大抵は60歳
      までに外科医は引退するので稼働年数は短い。太く短くといったところか。

    • HMO

      現在、アメリカを席巻している前払い制の健康保険。患者にとっては保険料が安
      いかわりに必ずPrimary care physician(受け持ちの家庭医)の同意がないと専
      門医にはかかれない、専門医に受診するごとに前もってPCPに知らせないといけ
      ない、急病の時も必ずまずPCPに連絡しないといけないなど結構制約が多い。ま
      た、PCPと専門医、保険会社間の連絡の遅れミスなどで保険会社からの支払いが
      遅れた場合などでもすぐ病院からの請求書が患者宛に送られてくる。そのしりぬ
      ぐいは患者がPCP、保険会社、専門医に交渉しない限りはいつまでたっても解決
      しない非常にやっかいな制度である。病院、医師側にとってはあらかじめ支払い
      限度に枠がはまっているため検査、治療の選択の幅が狭くなる。出来るだけ何も
      しない方がお金が残るようになっている。認可されていない特別な検査治療が必
      要な場合は保険会社にどうしてそれが必要かを事細かく事情を説明し報告しなけ
      ればならないのであるがそれでも却下されることが多々ある。この保険のおかげ
      で無駄な検査治療は減ったと思うが今は行き過ぎのような気がする。診療の方針
      決定など根本的なところはやはり保険会社ではなく医師がイニシアチブをとるべ
      きだろう。日本は医療費の無駄使いが多すぎるのでHMO! !
      B$NF3F~$b$d$`$rF@$J$$LL$b$"$k$,7h$7$FJ]812q

    • Infection

      感染症対策は徹底している。多くの清潔手術、例えば生検、ヘルニアの手術で抗
      生物質を使うことはまずない。整形、血管のオペでは第一世代のCefazolin、消
      化器のオペで第二世代のCefoxitin、泌尿器系のオペでGentamycinあるいは
      GentamycinニAmpicillinの併用といった具合で第三世代の使用はオペ中はまずな
      い。また、投与期間も執刀開始直前と術後48時間に限られている。特に強力な
      第三世代やImipenem、Levofloxacinといった薬剤の投与にはInfection
      specialistのapproveなしには薬局が薬を送ってくれない。投与期間も期限がつ
      けられる。複合感染症や敗血症、髄膜炎といった重症感染症の治療には必ず
      Infection specialistのconsultationが義務づけられている。このような抗生物
      質の規制は1970年代にすでに発生していたMRSAに端を発しているがこれを
      もってしてもなおMRSAとVRE (vancomycin resistant enterococcus)を完全にコ
      ントロールすることはできないでいる。日本も早急にこのような感染症対策抗生
      物質の規制、感染症の専門家の育成を図らねば耐性菌の蔓延は拡大の一途をたど
      るだろう。

    • Junior resident

      一年目、二年目のレジデントを指す。一年目のレジデントは特にインターンと呼
      ばれる。seniorとjuniorの実力の差は雲泥のものがある。また、スタッフからの
      信頼度も全く違ってくる。米国では州の正式な医師免許は一年以上のの臨床研修
      すなわちインターンを終了しUSMLE Step3に合格した後に発行される。それでも
      junior residentの実力は日本の一二年時の研修医と比較すると格段に知識、判
      断力は上である。実際のところ米国の医学部3、4年生と卒後一年目の研修医が
      同じくらいのレベルだろうか。

    • Kingdom

      日本の臨床教室の教授は教室医局の人事権を一手に握り権力は絶大である。米国
      のシステムではDepartmentの中にProfessorの肩書きを持つ人は複数いるが永久
      職のprofessorは数少ない。一番偉いのはChairmanである。臨床と研究の両方で
      業績を上げ国際的にも通用するような人でもたまたま空席ができるという幸運が
      ないとchairmanにはなれないのは日本の教授と同様であろうか。Harvardの
      Professorといえども他大学のChairmanの席を虎視眈々とねらっているのであ
      る。

    • Labo

      こちらのシステムでは血液の検査は24時間いつでも可能で検体提出から結果が
      返ってくるまで大体一時間以内である。検査の予約などというばかげたものもな
      い。必要なときに検査をしてその結果を見て迅速に次の指示を出す。本来これが
      あたりまえであるはずなのだが日本のシステムではこうはいかない。これを可能
      にしているのは検査の項目を極力絞っているからだろう。たとえば外科で必要な
      のはchem7 (Na, K, Cl, CO2, BUN, CRTN, BS) あるいはchem10 (上記+Mg, Ca,
      PO4), CBC, coagulationなどであろう。LFT(GOT,GPT, LDH, Alp)などは必要なと
      きだけに限られている。項目を絞ることにより一件にかかるコスト、時間を最小
      限にとどめ、そのかわりにいつでも迅速に検査が出来るようにしているわけであ
      る。実に合理的ではないだろうか?

    • Money

      レジデントの給料ははっきり言って安い。年間3万6千ドルくらいから始まり1
      年ごとに千ドルずつ上がってゆくが微々たるものである。もちろんmoonlighting
      (当直アルバイト)は出来ない。こっちの連中は大抵大学、医学校の学費を奨学
      金で賄っているので毎月給料の中から借金を返さないといけない。就職後10年
      以上かかって借金を返し続けなければならないことが結構あるらしい。レジデン
      トを卒業してBoardをとり専門医になったら一気に給与が5-10倍増する。が、レ
      ジデントのうちから株式に投資して少しでも早く借金を減らそうと努力している
      連中が結構いる。病院のオンラインインターネットで暇さえあればみんな株式の
      をチェックして一喜一憂している。日本ではあまり見られない光景である。

    • Nurse

      看護婦さん。Registered Nurse (RN), Practioner Nurse (PN)などの資格があ
      る。勤務交代は2交代が一般的のようである。日本の婦長、主任に当たる役職は
      クリアカットではない。日本特Lの儀式とも思える全員揃っての引継は見られな
      い。代わりに前勤務が自分の担当患者の報告を録音し引き継いだ看護婦がそれを
      聞いて情報を得るシステムになっている。配膳、患者の搬送はそれぞれ担当の助
      手がいるので看護婦の仕事ではない。点滴専門、薬液調合の専門の看護婦がいる
      のには驚いた。大学病院では見かけないが郊外の病院ではAnesthetistといって
      資格を持った看護婦がよく麻酔をかけている。

    • Oncology

      ガン治療の専門家。MedicalOncology, Radiation Onclogy, Surgical Oncology
      がある。化学療法剤の処方が出来るのはMedical Oncologistに限られている。
      Surgical Oncologist が手術をし、Medical Oncologistが治療の概要と化学療法
      を担当し、Radiation Oncologistが放射線療法を担当するといった役割分担が完
      全にできあがっている。

    • Physician Assistant

      略してPA。医師の仕事を補佐する職業。処方箋もかけるし、手術の手洗いにつく
      こともある。ERなどで軽症患者の診察治療も行う。ただしあくまで医師の補佐役
      なので最終的は判断は医師の同意が必要である。このポストも医療費を抑制する
      ために造られたものである。すなわち医師の業務を安い人件費でまかなおうとす
      るものである。大卒後3年間の専門教育で資格が得られる。

    • Qualification

      アメリカはなにかにつけ資格の国である。医師免許 (Medical license)、専門医
      資格(board)そしてsubspeciality boardと順番に格が上がり給料も上昇してゆ
      く。しかしながら最近は手っ取り早くお金を稼ぐために途中でMBA(経済学士)
      の資格を取り医師をやめて転業を図る人も結構いる。結局は資格はメシのたね
      か。

    • Resident

      レジデントが厳しいのは訳がある。もちろん当直を含め週80時間以上とも言わ
      れる過重勤務もであるがそれ以上に常に緊張状態にある心理的負担は大きい。な
      ぜならレジデントはローテーションごとに上級レジデント、Attending、他のス
      タッフから仕事ぶりについて詳細な評価を受けるからである。また、年に一度
      Boardの筆記試験を含め結果いかんではレジデントとして不的確とみなされプロ
      グラムからkick outされてしまう。またレジデントプログラム自体もBoardに合
      格できないできの悪いレジデントを卒業させるとプログラムの再評価で認可が取
      り消されてしまう可能性があるのでシビアにならざるを得ないのである。

    • Student

      医学生のローテーションも日本と比較にならないほど厳しい。特に外科のロー
      テーションはレジデントと同じように朝5時から回診し、受け持ち患者のプレゼ
      ンをし、採血、点滴をし手洗いにつきカルテ、指示を書き当直をこなす。彼らは
      ローテーションに入る前に病歴所見の取り方についてたたき込まれすでに十分な
      知識を持ってローテーションに来るのである。彼らは日本の一年二年時の研修医
      と同じ仕事をしているわけである。また、彼らの人間としての成熟度も日本の医
      学生とは比較にならない。米国では医学校は大学院教育であり一般大学を卒業後
      に一度社会人を経験した人材が結構いる。彼らは目的意識もしっかりしている。
      BUなど私立の医学校には高卒後一貫教育のシステムがないわけではないが7年制
      のシステムである。日本の国家試験に当たるUSMLEはStep1,2,3からなり医学生の
      うちにstep1(基礎医学), step2(臨床医学)を受験する。step3は多くの州で
      インターン終了を受験資格としているところが結構ある。

    • Trauma

      外傷。私のいたBoston Medical Center (旧Boston city Hospital)はボストンで
      一番大きなtrauma centerである。隣接するRoxbery, Dorchesterはボストンの犯
      罪多発地域であり銃創、ナイフによる刺創が数多く運ばれてきた。重症の交通事
      故外傷も多数搬送されていた。ERに運ばれた重症患者は一般外科が全身管理を担
      当し整形外科、脳神経外科が連携し緊}手術、SICU管理、一般病棟を経て退院あ
      るいはリハビリ施設に1-2週間で転院していく。また、頭部顔面の外傷には口腔
      外科、形成外科、耳鼻咽喉科のお世話になることがよくあった。SICUは外科のレ
      ジデントがカバーしているのだが2日に1回当直が回ってくる非常にきついロー
      テーションだった。脳死判定を始めて見たのもSICUでだった。

    • Unit

      ICUはSICU (Surgical ICU)とMICU (Medical ICU)に大別されMICUはさらにCCU(Cardiac) とRICU (Respiratory)に細分される。SICUは外科、MICUは内科によって運営されている。Critical Care MedicineはICU管理を専門とするsubspecialityで内科、外科、麻酔科の要素を合わせ持つ。fellowshipには外科、内科、麻酔科の レジデント修了者が入ることが出来る。 TCU (Transitional Care Unit) は日本にはないシステムである。病棟での入院は必要ないが自宅で管理の出来ない患者のための収容施設で、主にリハビリを目的としている。高血圧、糖尿病など管理の難しい患者を術前に収容する事もある。

    • VA Hospital

      在郷軍人病院。日本の国立病院に相当する公的病院。連邦政府から予算が出ている。名前の通り退役軍人とその家族が主な患者である。VAの患者は大抵高血圧、糖尿病、冠動脈疾患持ちで喫煙者も多い。必然的に動脈閉塞性疾患、糖尿病性壊疸の患者が異常に多い。皮肉なたとえであるが戦争で負傷して下肢を失った人よりも糖尿病、血管病変で下肢を失う人の方が圧倒的に多いような気がする。日本には存在しない特徴を持った病院である。

    • Ward

      病棟。日帰り手術の多さには目を見張る者がある。一泊手術も非常に多い。術前入院などはよっぽど全身状態の悪い患者か特殊な術前処置を要する患者に限られている。例えば大腸の手術などbowel prepの必要な患者でも術前の外来受診で抗生剤と腸管を洗い流す電解質溶剤を受け取り術前日に絶食のうえこれらの薬を飲むように指示される。多くの消化器手術の患者も合併症がなければ摂食が始まった段階でどんどん退院してゆく。ドレーンが入っていてもお構いなしである。こ
      れを可能にしているのがVisiting Nurseのシステムでる。VNA(Visiting NurseAssociate)院外の委託サービスで医師の指示を元に患者の自宅を毎日訪問し、投薬、採血、ドレーン管理、包交などの簡単な処置を行う。異常があるときには医師に連絡を取って指示を受ける。これも医療費の高騰を抑制するために考え出されたシステムである。日本でも出来高払いの原則がなくなるとこのようなシステムが導入されることになるだろう。

    • X-ray

      日本での臨床は5、6年前の知識しかないので比較の対象にはならないが米国でのCTの使用頻度は異常に多いような気がする。肝、胆、膵はともかく消化管疾患にはあまり適応はなかったと思うのだがこちらでは当たり前に虫垂炎や腸閉塞の診断にradicat(経口造影剤)を飲ませCTをとる。虫垂炎などは超音波エコーのほうが迅速安全確実だと思ったりもするのだが確定診断にはまずCTである。
      術前の胸写に対する考え方も随分違う。50歳以下で心呼吸器疾患の既往がなく風邪、気管支炎などの問題がなければ胸写をとることはない。これも無駄な検査を省いて医療費の支出を抑制するところから始まったものだろう。 X線検査の予約は大体前日が原則である。一月先まで検査予約がいっぱいといったばかげたこともあまりないようである。

    • Y,Z

      余談。米国の一人当たりの医療費の支出は日本の約5倍という数字がある。病院の入院日数は極端に減らされているし薬品やその他カテーテルなどの医療器具の単価は随分日本より安いのではないかと思う。にもかかわらず医療費が膨大なのはやはり人件費のためではではないだろうか。米国では医師、看護婦、薬剤師、放射線技師、臨床検査技師の他に栄養管理士、PT (physical therapist), OT(occupational therapist), speech & swallow therapistが必ず常勤している。また、RN (Registered Nurse)の資格を持ちながら特殊な仕事を専門とする看護婦もいる。点滴専門のIV nurse、入院患者の退院、リハビリのcoordinatorを専門とするRN、病院のquality improvementやrisk managementを専門とするRNもいる。日本であれば全部看護婦の仕事の一部になっているような雑用も、専門のtransporter,配膳係がいる。数え上げたらきりがないが非常に細分化されたシステムで ある。

  1. おわりに

    レジデントに入るまでの3年間とレジデントに入ってからの1年半を振り返って
    みた。まだまだ私の知らないことが見つかってくると思うので機会があれば加
    筆、訂正をしてゆきたいと思う。

担当 Nagoshi,M